トイレにウミガメが現れた日

三日ぐらい前からお腹が張っている。

 

食欲もあまりなくて、なんか食べても満腹というより、「ギブ…ギブ…もういい!」みたいな感じになっている。

 

そういえば、四日前から出ていない。出ていないって、そう、あのお通じ的なアレ。

 

さすがに昨日昼ご飯を食べた後で、自然にトイレに行きたくなった。
すでにもよおしていて、そう、あえて言うならデパートの催物会場で北海道物産展をやている時のあのオープン直前の緊迫感。我こそが先にあの店に行って…のあの永遠のスタート直前の緊迫感。もう、誰かがすぐにでもフライングしたらダーッと皆後に続きそうなほどの緊張状態。

 

 

 

…あれ?フライングする選手がいない。

 

…便秘の後にありがちな硬いやつだ…あの強敵に違いない。これまでに数回出くわしたことのある強敵。

 

下腹部に力をこめるが、なかなか生まれない。難産だ。腹式呼吸をしてヒーフー言いながら格闘すること10分。相手は手ごわい。

 

数年前の同様の時のコツを思い出す。硬い強敵はちょっとほぐしてやるといいんだ。ちょうどお尻の穴のちょっと上側、尾てい骨との間に柔らかいところがあって、そこが待機場所になっているっぽい。そこをもみほぐすと多少柔軟性を帯びて出やすくなる。

 

…硬い…コッチコチ。でも、もう頭が出かかっている。下腹部に力をこめるたびに一瞬気が遠くなるようなめまいがする。立ち眩みみたいなやつ。目の前が暗くなる寸前で力を弱め…また下腹部に力をこめ…を繰り返す30分。ある意味危険なマスターベーションである。窒息プレイってこんな感じなんだろうなって思いながら一心不乱に力をこめる。「頭が出てきたよ!もう少しいきんで!」って医療ドラマだったら行ってくれるんじゃないかって程の変な汗をかきながらの作業。このまま脳の血管キレて死んだらすごく情けないと思うほどの迫力。

 

 

 

…50分経過。

 

お母さん、ダメでした。生まれませんでしたよ。

 

でも、頭だけ出ちゃっているからどうにもならない。どのくらい出ているかはわからないけれど、処理をしなければ…トイレットペーパーをぐるぐると手に取り、まさぐる。あ、小さい…ってか、ほとんど出ていない…そのまま慎重に腰を上げ、出かかっている硬いやつを押し込む。少なくともスタートラインの向こう側に押し込む。優しく、でも力強く。満員電車にあと一人を押し込む駅員さんのように私の指は頑張った。

 

 

 

戻った。

 

 

 

戻ったよ。良かったよ。でも、押し戻したのって初めてだよ…これ、本当にいつか産まれるのかね?え?なんて思いながらベッドで横になった。もう動きたくない。動いたら出ちゃう…いや、出なくて困っている…もう涙目になりながらベッドでスマホポチポチしている。別に何かを調べるんじゃなくて、もうなんか他のことに意識を集中させたくて、ひたすらパズルをやっていた…

 

 

 

!!!来た!!!第二波!!!

 

 

 

よろけながらトイレへ。第二ラウンドです。座ったとたんに来た。オープン寸前の催物会場。最前列はロープ際でいざ行かんとしている状態。後ろから「押すなよ…押すなよ…」の瞬間に下腹部に力をこめた。

 

ンーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

脳の血管が数本切れた気がして、一瞬気が遠のきかけた瞬間、

 

 

 

ボトッ…なんとなく重量感のある音がお尻の下で鳴る。これはたぶんデカいやつ。硬いやつ。トイレットペーパーと一緒に流すと詰まる可能性があるので見ないままに先に流す。さよなら。私の分身。グッバイ。

 

 

 

もう、ウミガメの産卵クラスですよ。トイレに鏡こそ無いものの、たぶん涙流しながら顔を真っ赤にして汗だくの私がそこにいる。出すものを出し、ホッとした私は拭いて立ち上がった。

 

 

 

硬いやつ流れてなかったーーーーー!!!!!

 

 

 

そうか、ボトッと音がしたのは水の溜まっているところに滑り落ちずに半分丘にしがみついた音だったんだ!!!

 

それはそれは長さ20センチ、太さは3センチはあろうかという立派な一本物だった。力強さすら感じるその巨木は流れに対抗して残っていた。あまりにフォトジェニックな光景だったので写真に残すことが自分の義務ではないかと思うほどに立派なものであった。(撮らなかったけど)

 

そのあと三度目の水流で無事に流れて行ってくれましたとさ。

 

 

 

そして翌日…翌日もまた、産まれた。今度は安産。昨日の子ほどではなかったが、10センチくらいのたくましいせがれ。

 

 

 

この状態があと何日続くのかはわからない。

わからないけれど、私の肛門はもうゆるゆる…明日も安産であることを祈ろう。